データアンカートークン（DAT）とERC-8028：Ethereumの分散型AI（dAI）時代におけるネイティブAI資産標準

本記事では、「AIトークン」がどのようにしてナラティブな概念からインフラへと進化したのか、そしてデータアンカリングトークン（DAT）がEthereumの新興分散型AI（dAI）テックスタックにおいてどのような位置付けにあるのかを追跡します。具体的には以下の内容を中心に展開します：

1. 「分散型AI」の表層を明らかにする
2. Ethereumの分散型AI（dAI）ミッションを探る
3. DATおよびERC-8028をEthereum上のネイティブAI資産標準として紹介
4. DATと既存AIトークンのコアな違いを説明
5. DAT Ethereum Improvement Proposal（EIP、すなわちERC-8028）が開発者にもたらす新たな可能性を詳述
6. Lazbubu、CreateAIおよびLazAI AlphaメインネットによるDATの実際の応用を紹介

一、「分散型AI」の表層

2022年末以降、AIトークンは暗号資産分野で最もホットなナラティブの一つとなり、超過リターンを獲得し、ほぼ毎サイクルごとに新たな「分散型AI」プロジェクトが登場しています。しかし、ほとんどのいわゆるAIトークンはネイティブAI資産ではありません。第一世代の関連プロジェクトは大まかに三つのカテゴリに分けられます：

· 計算ネットワーク（例：RenderやAkash Network）：トークンはGPU計算リソースの支払いに使用；

· エージェントまたはインテリジェントネットワーク（例：BittensorやFetch.ai）：トークンはモデル開発者や自律エージェントへの報酬に使用；

· データマーケット（例：Ocean Protocol）：データセットへのアクセス権をトークン化するが、データセットを利用したAI出力自体はトークン化しない。

これらのシステムは重要な実験です。理論的には「分散型AI」を実現する可能性があり、トークンが計算リソース、データ、エージェントの大規模な協調を可能にすることを証明しましたが、一般的に以下の構造的な問題を抱えています：

· AIワークロードのほぼ全てがオフチェーンで行われ、ブロックチェーンは支払いや記録レイヤーとしてのみ機能；

· トークン自体はAI資産を表していない；

· 収益分配、利用統計、トレーサビリティ機構は多くの場合後付けで、再利用可能な標準としてコーディングされていない。

これらの限界は、最近の学術レビューが現在のAIトークンエコシステムを「分散型AIの幻想」と表現する理由でもあります：そのアーキテクチャや経済モデルはしばしば中央集権型AIサービスと非常に似ており、単にトークンレイヤーを強制的に追加しただけです。

二、Ethereumの分散型AI（dAI）転換：エージェントには資産が必要

このような背景のもと、EthereumはAI経済におけるより具体的な役割を明確にし始めています。最近の記事や講演でVitalik Buterinは「暗号資産＋AI」の慎重かつ明確な方向性を描いています：「ブロックチェーンはAIによるプロトコルガバナンスのために存在するのではなく、AI駆動システムに検証、トレーサビリティ、信頼できる中立性を提供すべきだ——オープンな基盤インフラとして、エージェントが透明なルールの下で決済・検証・価値共有を行えるようにする。」

Ethereum Foundationが新たに打ち出した分散型AI（dAI）プログラムはまさにこの理念に基づいています：EthereumはAIエージェントとマシンエコノミーの決済・協調レイヤーとなるべきであり、Davide Crapis（@DavideCrapis）が主導し、「AI経済のインフラ」としての立場を明確にしています。X（旧Twitter）での発表でも「EthereumをAIのための第一選択の決済・協調レイヤーにする」というミッションを明言しています。

このビジョンを真剣に実現するには、直ちに二つのコア要件を満たす必要があります：

1. エージェントと支払い標準（例：エージェント間決済用のERC-8004/x402ソリューション）；

2. AI資産自体の標準——エージェントが消費・生成するデータ、モデル、推論結果、インタラクション履歴を含む。

EthereumがAIエージェントの決済・協調レイヤーとなるには、ネイティブAI資産を表現できる方法が必要です：ERC-20のような汎用性を持ちつつ、AI特有の経済モデル要件を満たすもの。

DATとERC-8028はまさにこの課題を解決するために生まれました。AI資産をプログラム可能かつ検証可能な権益としてEthereum上に存在させる標準化ソリューションを提案しています。単なるメタデータではなく、実体ある資産としてです。

三、DATとERC-8028：AIをオンチェーン資産として位置づける

データアンカリングトークン（DAT, Data Anchoring Token）はLazAI Networkが開発した「ネイティブAI資産向け」半同質化トークン（SFT）標準です。各DATは所有権証明、利用権、特定AI資産に関連する収益分配の三要素からなる動的な組み合わせとして定義されます。

LazAIはEthereum Improvement Proposal（EIP-8028）を通じてDATをEthereum公式標準として提案し、DATをプロトコル専用メカニズムから再利用可能・監査済みでエコシステム全体に適用可能なEthereum AI資産表現標準へとアップグレードすることを目指しています。

EIP-8028の詳細はこちら：Fellowship of Ethereum Magicians

この提案は既存のERC標準を基に、AIシナリオ向けの特定セマンティクスを追加しています：

· クラス（Class）概念：抽象的なAI資産（データセット、モデル、エージェントプロファイル、推論プールなど）を表し、メタデータと完全性参照を付与；

· クオータ（quota）概念：各トークンに紐づき、基礎資産の消費可能量を定量化；

· シェア（share）概念：その資産が生み出す収益をトークン保有者間でどう分配するかを明示；

· 標準イベントとメソッド：クラス（Class）の利用状況を記録し、ETHまたはERC-20トークンで収益を決済。

これはまさにEthereum分散型AI（dAI）ロードマップが必要とする具体的な標準です：検証可能かつコンポーザブルな標準で、AI成果物を一級オンチェーン資産として扱います。

四、DATと既存AIトークンの違い

4.1 資産中心の設計

既存のAIトークンは多くの場合、プロトコル上層に追加された不要なレイヤーであり、実用性に欠けます。一方、DAT（ERC-8028）ではコア組織単位がAI資産そのものです。クラス（Class）によってデータセット、モデル、エージェントが個別に参照可能となり、トークンは特定「クラス」への具体的権益を表します——これはAIシステムの実際の構築ロジックにより適合しています。

4.2 利用量をコア経済変数に

DATの設計自体が「許可された利用量」とトークン権益を結びつけています。具体的な計量単位はクラス（Class）のルールで定義されます（例：トークン数、コール回数、ステップ数、複合指標など）が、標準レイヤーのクオータ機構が利用量の統計と価格付けの一貫性を保証します。

これは持続可能な経済モデル構築の前提です：貢献者の収益が実際の作業量に連動し、プロトコル全体の指標には依存しません。

4.3 資産レイヤーでの標準化収益分配

ERC-8028の収益共有モデルは標準インターフェースの一部です。これによりAI資産が生み出す価値を、データ貢献者、モデル構築者、ファインチューナー、評価者、インフラ提供者に汎用フォーマットで分配できます。オンチェーン分析やリスク評価にとってこれは極めて重要です：収益フローが検証可能・コンポーザブルとなり、カスタムコントラクト内に隠れることがありません。

総合的に見て、これらの特徴はDATが従来のガバナンストークンや支払いトークンではないことを意味します。むしろ特定資産に紐づいた、検証可能なAI活動のトークン化権益であり、その活動がどのようにクオータを消費し価値を分配するかを標準化されたセマンティクスで記述します。

五、DAT Ethereum Improvement Proposal（ERC-8028）が開発者にもたらす意義

DATをEthereum標準（プロトコル専用メカニズムではなく）に推進することは、開発者にとって実質的な影響があります。DAT Ethereum Improvement Proposal（ERC-8028）はこれを再利用可能・監査済みでエコシステム全体に適用可能な標準として明文化します：

· クラス（Class）作成、トークン発行、クオータ統計、利用記録、収益決済、権益主張のインターフェースを明確化；

· クオータ（quota）、収益シェア比率（shareRatio）などAI特有セマンティクスのオンチェーン表現方法を定義；

· メタデータ、完全性、ルール参照の規範を設定し、ウォレット、ブロックエクスプローラー、インデクサー、分析ツールがカスタム統合なしでAI資産を理解・可視化可能に。

5.1 データおよびモデル提供者

データおよびモデル提供者にとって、ERC-8028はAI成果物をオンチェーン資産として発行する標準化された方法を提供します：

· 検証可能なメタデータと完全性参照；

· 明確な利用・許諾ルール；

· 複数貢献者間での収益共有の標準インターフェース。

提供者は各プロジェクトごとに許諾やロイヤリティロジックを再実装する必要がなく、下流プロトコルが理解できる統一インターフェースに依存できます。

5.2 エージェントおよびアプリケーション開発者

DATはエージェントが依存する外部資産に統一抽象レイヤーを提供します。異なるエコシステムの複数データセットやモデルを消費する必要があるエージェントは、各関連クラス（Class）のDAT権益を保有するだけで、単一かつ一貫したインターフェースで利用権限と経済決済を処理できます。断片的な統合ソリューションに依存する必要はありません。

5.3 インフラ、DeFiおよび分析プロジェクト

この提案は新たなオンチェーンオブジェクトを正式に定義し、インデックス、担保、ヘッジに利用可能です。DATは利用量と価値フローを公開するため、新しい金融商品を支えることができます：特定モデルの収益支援債券、データセットエクスポージャーの組み合わせ、特定クラス（Class）の将来AIワークロードを反映するストラクチャードプロダクトなど。

5.4 より広範なEthereumエコシステム

エコシステムレベルでは、ERC-8028が「オンチェーンAI」概念を明確にします。

重いトレーニングや推論プロセスを基盤レイヤーに移すのではなく、AIの経済レイヤーとトレーサビリティレイヤーを標準化します——「どの資産を使い、どのルールに従い、誰が利益を得るか」——そしてEthereum Virtual Machine（EVM）ネイティブな方法で表現し、以下のシナリオで相互運用性を実現します：

· rollup（二層スケーリングソリューション）；

· サイドチェーン；

· 専用オフチェーン計算ネットワーク。

これはEthereum Foundationの「検証可能なセキュリティ保証を持つ分散型AIシステム」ビジョンと高度に一致し、dAIチームがEthereumコンセンサスと暗号技術基盤の上で分散型AIテックスタックを構築する目標にも合致します。

六、DATの実際の応用：Lazbubu、CreateAIおよびAlphaメインネット

標準は実際のシステムで応用されてこそ意味があります。

現在、DATはLazAI上で実験されています——LazAIはWeb3ネイティブAIインフラプロトコルで、検証可能なデータ、エージェント経済、プログラム可能なAI収益フローに特化しています。

具体的な応用例は以下の通りです：

1. Lazbubu：データアンカリング型コンパニオンエージェント。LazbubuはAIコンパニオン型エージェントで、その行動はユーザーの継続的なインタラクション履歴によって形成されます。LazAIはDATでこれらのインタラクションデータをアンカリングし、ユーザーのチャット履歴、タスク進捗、選択を構造化資産にします。現在までに14,307枚以上のLazbubu DATが発行されています；
2. CreateAI：AIエージェントマーケット。このプラットフォームはGMPayerクロスチェーン決済ハブ（x402プロトコルベース）を活用し、各エージェントを独立した経済主体と見なし、専用DATクラス（Class）を付与、下流のマネタイズプロセスを透明かつプログラム可能にします；
3. SoulTarot：タロット占い解釈AIエージェント。このアプリケーションはDATの応用をよりナラティブかつ感情駆動のシナリオに拡張し、各占い結果はオンチェーンで決済され、クロスチェーン決済はGMPayerで実現されます。
4. Alphaメインネット：AIインタラクションをオンチェーン価値に変換。LazAI Alphaメインネット（近日公開）は、Lazbubu、CreateAIなどのAIエージェントとのインタラクションをすべてDATとしてアンカリングし、基盤にはMETISでGas費用を決済、Proof of Stake（PoS）＋実用Byzantine Fault Tolerance（QBFT）コンセンサスメカニズムを採用します。

これらの初期展開は、完璧な経済効果を実現するためというよりも、この思考モデルを検証するためのものです：AIは資産として存在でき、その権益、利用ルール、報酬メカニズムはマシンリーダブルであるべきだということです。

結語

第一波AIトークンは「AI＋暗号資産」への強い市場需要を証明しましたが、オフチェーンインフラにトークンの殻を被せるだけでは全く不十分であることも示しました。本当のレバレッジ効果はAIそのもの——データ、モデル、エージェント、インタラクション履歴——が明確な権益、利用ルール、価値フローを持つオンチェーン資産となることから生まれます。

DATはERC-8028によって正式に標準化され、この資産レイヤーのコアルールを明確にします。計算ネットワーク、AI Layer1（基盤チェーン）、モデルマーケットと競合するのではなく、これらに共通の「文法」を提供します：販売資産、利用方法、サプライチェーン全参加者の収益分配ルールを記述するためのものです。

分散型AIが一過性の投機や価格チャートを超えて成熟するには、このような具体的な標準が必要です。DATはネイティブAI資産向けにこの種の標準を定義した最初の本格的な試みであり、それこそがそのコアバリューです。